「私が働く会社のCEOへ」:自己責任 or CEOの責任?
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ちょうど1ヶ月ほど前、タリアという25歳の女性が書いたブログ記事がアメリカで炎上しました。自らが働く大手企業のCEO向けに、手紙形式で書かれたこの記事。給料が低すぎて、生活が行き詰まっている、という内容のものでした。それに対する様々な意見が飛び交い、大きな議論となりましたが、起業を考えている私たちにとっても他人事ではありません。

メディア関連の仕事に就くことを夢見て大学を卒業したものの…

roadway-1081736_1280出典:Pixabay

大学を卒業したタリア。住んでいた地域や周りの環境に耐えられず、毎日死にたいと思っていたという。そんな状況から逃れるために父親がいるサンフランシスコへ引っ越す。メディア関連の仕事に就くのを夢みたものの、経験がなかったため、まずはカスタマーサポートセンターで働くこととなった。

彼女を待ち受けていた過酷な現状

物価が高いサンフランシスコ。出勤できる範囲にある一番安い家に住んでいても、給料の80%は家賃の支払いに消えてしまう。スーパーで食品を買うこともできず、ご飯はお米だけ。寝る前に大量の水を飲んで、空腹を誤魔化す毎日が続いている。冬になっても、ヒーターは一切使わない。家の中では何重にも服を重ねて寒さをしのいでいる。これほど節約しても、生活は厳しい。出勤するための交通費が出せず、近くにいた親切な人にお金を貸してもらったこともあるという。
副業しようと思い、フリーランスでライティングの仕事を取っていた時期もあったが、今は精神的にも肉体的にもそれどころではないという。

タリアだけじゃない、部門全員が極限状態

ある同僚は家賃が払えず、周りの人に募金をお願いしていた。最終的には仕事をやめ、より物価が安い地域に引っ越した。
別の同僚は家を追い出されそうになり、オフィスにある連絡用のホワイトボードに助けを求める書き込みをしていた。ここ数ヶ月、その同僚の姿を見ていないという。
さらにはホームレスだと思われる同僚もいた。毎日大きなカバンを持って出社して、会社に置いてあるお菓子を詰め込んでいた。お菓子はどの階にも置いてあったが、タリアたちが働いている階のお菓子は凄まじい早さでなくなっていく。

そしてついには…

このブログ記事を投稿してから数時間後。タリアはいきなり仕事のメールアカウントにアクセスできなくなり、人事部からの電話で解雇された。その時、ブログ記事が解雇の理由になったことを示唆されたという。タリアはそれからブログの記事を更新し、読者に支援をお願いした。

「考えが甘すぎる」とタリアに批判殺到

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出典:Pixabay

このブログに対し、タリアに同情する声もあった一方、彼女を批判する声も多くあがった。主に以下のようなものだ:

  • そう簡単にいい給料なんてもらえるはずがない
    経済が行き詰まるなか、フルタイムの仕事が見つかるのはありがたいもの。給料が低めだろうが、こんな形でCEOに訴えるのは論外。仕事をくれている人に感謝するべきで、ブログ記事を投稿したことで解雇されるのは当たり前。
  • 契約をしたのは自分の責任
    そもそもその仕事に就いたのは自分で決めたこと。事前に給料もわかっていたことで、物価と照らし合せた時に「やっていけない」という判断もできたはずだ。会社のトップのせいではなく、自分が判断を誤っていたのが原因だ。
  • もっと節約するか、もっと稼げばいい
    給料の80%を家賃に使うのは明らかにおかしい。もっと安いオプションがあるのでは?それでもお金がきついなら、もっと副業をすればいい。「私も3つの仕事を掛け持ちしていた」「私はお金を稼ぐために高校を中退して1日18時間働いてた」など自らの辛い体験と比べて批判する人も目立った。

さらに、会社のCEOは次のように返事をした。

昨晩タリアのブログ記事を読みましたが、サンフランシスコの物価は確かに高すぎます。私自身、この問題には積極的に取り組んでいて、手に届く価格帯の物件を増やす活動をしている団体を支持しています。また私はタリアの解雇に関わっておらず、決して私に対する手紙を書いたことが原因ではありません。(中略)サンフランシスコの物価は大卒レベルの仕事の給料で住むには高すぎるのは事実です。当社は以前から、この部門は(より物価の安い)アリゾナ州へ移転する準備を始めています。

 

「大いなる力には、大いなる責任が伴う」

sky-1107952_1280出典:Pixabay

私はタリアのような経験をしたことがある。大学を卒業した後、シンガポールで就職をした。その時事情があって転職したが、新しい職場で収入が激減してしまった。家賃が払えなくなり、6人部屋のホステルに引っ越した。食べられるのはパンと肉まんだけ。交通費を節約するために片道1時間、歩いて出社する日々が続いた。

もちろん、そのような状況に陥ったのは自分のせいだという自覚はある。もっと慎重に会社を選んでいれば、もっと冷静に判断をできていれば、結果は違っていただろう。しかし、当時はどうしても仕事が必要で、経済的にも精神的にも時間的にもゆっくり選んでいる余裕がなかったのも事実だ。

一方で、CEOにも様々な事情があるだろう。経済状況が厳しい中、会社を回していくには人件費を削るしかないと考えたのかもしれない。あるいはサンフランシスコの生活費の高騰について行けず、対応が遅れてしまったのかもしれない。大きな会社のCEOとして多忙な毎日を送る中、一人一人の従業員の現状と向き合う時間がなかったのかもしれない。

仕事というのは人の生活の質に直結する。日本でも格差がどんどん広がったり、ブラック企業などで心や体の健康を損なってしまったり、出産・育児・家族などの自分の私生活が犠牲になったり、仕事や職場に関する社会問題が多くある。これから起業をして従業員を雇うかもしれない私たちこそ、真剣に考えていかなければいけない。「大いなる力には、大いなる責任が伴う。」有名な映画にあったセリフだが、起業に成功したら私たちは創業者として大きな影響力を持つこととなる。その影響力をどう使うかによって、どんな社会になるかが変わってくるのだと思う。

参考文献

Medium: An Open Letter to My CEO
Medium: An Open Letter to Millennials Like Talia…
Medium: Response to Yelp Employee Letter is a Study in Privilege
Business Insider: A Yelp employee publicly complained to the CEO that she couldn’t afford to buy groceries — hours later, she was fired

 

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